1. 地震の概要
2011 年3 月11 日午後2 時46 分,東北地方太平洋沖のプレート境界を震源としたM 9.0(気象庁)の本震が発生した.その直後に栃木県内と茨城県内で最大震度6
強を,千葉県,埼玉県および群馬県では,最大震度6 弱を東京都,神奈川県および山梨県では,最大震度5 強を,それぞれ観測している.震度6 弱以上の観測点は,図1.1及び表1.1
のとおりとなっている.
図 1.1 関東支部各県で観測された最大震度の分布
2011 年3 月30 日気象庁発表資料より作成
表 1. 1 最大震度観測点(震度6 弱以上)
震度 |
観測地点 |
6強 |
栃木県:宇都宮市・真岡市・大田原市・高根沢町・市貝町
茨城県:笠間市・筑西市・鉾田市・高萩市・常陸大宮市・
那珂市・小見玉市 |
6弱 |
栃木県:栃木・那須烏山市・芳賀町・那須塩原市・那須町
茨城県:水戸市・つくばみらい市・桜川市・行方市・かすみがうら市・稲敷市・板東市山・
潮来市・茨城鹿嶋市・つくば市・取手市・石岡市・土浦市・城里町・東海村・
茨城町・ひたちなか市・北茨城市・常陸太田市・三浦村・常総市
千葉県:印西市・成田市
埼玉県:宮代町
群馬県:桐生市 |
2. 茨城県内の被害概況
2.1 概要
茨城県の自治体数は(32 市,10 町,2 村),人口は2,967,404 人(2009),面積は6,095.69 km2,建築物数は1,632,997 棟(茨城県)である.茨城県は震央からおおむね230km〜350km の範囲にあり,関東支部内では最も震央に近い.震度は震央からの距離によらず,広範囲に震度6 弱が分布している.応急危険度判定結果速報を表3.1に示す.「危険」と判定された棟数の建物総棟数に対する割合が最も高い高萩市で1.30%である.
2.2 被害の特色の概要
(1) 構造・非構造被害
茨城県内は,本速報とりまとめの時点では,被害があっても把握されていない事例が数多くあると考えられ,あくまでも初動調査の範囲内で把握できた被害の例示を行う範囲に留める.
倒壊の情報があった建築物は,木造および石積みの家屋である.屋根瓦の被害,外壁の落下は,県内のどの地域においても見られる.鉄骨造建物の倒壊または全壊の情報はない.ただし,外壁パネルの落下,ガラス,内装パネルの落下の被害は数多い.RC
造建物の倒壊の情報はないが, 非構造部材の被害ホールや体育館などの大空間建物で,天井パネルの落下例が多い.また,新耐震前(未耐震補強)の体育館では屋根ブレースの破断およびS
屋根アンカー部のRC 柱コンクリート剥落,新耐震以降の体育館では屋根ブレースのたわみが見られる.RC 造建物での煙突,物見塔などの塔状部の被害も見られる.
(2) 津波による被害
津波による建物被害が多く見られのは,北茨城市,日立市,ひたちなか市,大洗町の海岸沿いで,住宅が密集している地域である.鉾田市以南の海岸線は,おおむねなだらかな砂浜が続き,家屋が少ないことから被害報告は少ない.ヒアリング調査によると北茨城市平潟で,地形の状況によって波が崖に反射し,津波が10m程度の高さになったとのことである.県による住宅被害状況のうち,家屋浸水に関する数値を表3.2
に示す.県の住宅被害状況の数値は,全壊棟の数が日立市(35),北茨城市(97)で多いが,これらでは津波による被害が多数を占めると思われる.
(3) 液状化及び地盤変状
茨城県南東部の鹿嶋市,神栖市,鉾田市,潮来市,行方市(鹿行地区)および稲敷市,河内町周辺は,霞ヶ浦,北浦および利根川に囲まれた,いわゆる水郷地区であり,もともと沼や湿地帯であったところが多い.また,神栖市は鹿島開発のために大規模な埋立て造成が行われており,新興住宅地が開発されつつある.これらの地域では液状化による家屋の傾斜が見られた.茨城県内では,神栖市の水道復旧が一番遅れている(3/28
現在断水25,831戸)
3. 栃木県内の被害概況
3.1 概要
栃木県の自治体数は14 市13 町,人口:2,016,631 人(2010),建築物数は1,198,269 棟,面積は6408.28 km2.栃木県によれば被害建築物数は,全壊125,半壊1,053,一部損壊29,064(3 月28 日現在)となっている.
3.2 被害の特色の概要
被害調査を行われた地域は,主として栃木県東部(鬼怒川の東,図4.1)である.調査した全域において,屋根瓦の落下,塀の転倒がある.構造体に大きな被害があったのは,新耐震以前の建設のRC
造建物(柱のせん断破壊),筋交いなどの入っていない古い木造住宅,大谷石積み高床式木造住宅,および,盛り土地盤上に建つ建物.新耐震以降建設の建物には目立った構造被害なし.
4. 千葉県内の被害概況
4.1 概要
千葉県の自治体数は54(36 市,17 町,1 村),面積は5,156.60 km2 であり,人口は6,216,419 人,世帯数は2,516,989
世帯(平成23 年2 月1 日現在)である.家屋数は2,210,888 棟(固定資産税課税台帳)となっている千葉県内の被害は主に液状化や地盤の変状による建物の沈下や傾斜と津波による浸水被害であり,被害は下記の4
地域(図4.1 参照)に集中している
@ 千葉港湾部(浦安市・千葉市美浜区など):液状化
A 利根川流域(我孫子市・香取市など):液状化
B 千葉北東部沿岸(銚子市・旭市など):津波
C 印旛沼周辺(佐倉市・成田市など):不同沈下
被害調査(自治体への聞取り調査および現地調査)は記の4 地域を対象として実施した.表5.1 は千葉県内で実施された応急危険度判定の速報結果である.危険が657
棟,要注意が1569 棟となっている.
図 2.1 対象地域と被害の地理的分布
4.2 被害の特色の概要
(1) 千葉港湾部
千葉港湾部で対象とする自治体は,浦安市,市川市,船橋市,習志野市,千葉市美浜区,千葉市中央区とした.現地調査は浦安市,船橋市,習志野市,美浜区で実施した.これらの自治体の沿岸の大部分は埋立地となっており,液状化が広範囲にわたって発生した.特に浦安市においては首都高速湾岸線より海側において液状化が生じ,その範囲は市域の約3/4 に及んでいる.船橋市では三番瀬海浜公園(潮見町)で液状化が発生したほか,日の出,湊町で液状化による護岸の側方流動,それに伴う建物の不同沈下等が確認できた.習志野市では袖ヶ浦団地(袖ヶ浦)で液状化の被害が見られたが建物の構造的な被害は見られなかった.美浜区は区域全体が埋立地であり広範囲に液状化が発生した.磯辺や新港では大量の噴砂の跡があり,住宅の傾斜も確認された.
(2) 利根川流域
利根川流域で対象とする自治体は,柏市,我孫子市,栄町,神崎町,香取市,東庄町とした.現地調査は大きな被害の発生が報告されていた我孫子市布佐と香取市佐原および小見川で実施した.布佐では都地区で液状化の被害が集中しており,被害の範囲は過去に沼であった部分と一致していた.香取市の主な建物被害は液状化または地盤の変状に伴う傾斜であったが,かなり年代の古い家屋では倒壊も見られた.また,小野川沿いの重要伝統的建造物群保存地区にも液状化による被害が確認できた.銚子市から我孫子市までを利根川沿いを結ぶ国道356
号線では堤防斜面のすべりや道路の変状による通行止めが各所で発生していた.
(3) 千葉北東部沿岸
千葉北東部沿岸で対象とする自治体は,銚子市,旭市,匝瑳市,横芝光町,山武市,九十九里町とした.現地調査は上記の各市町で実施した.これらの地域の建物被害はほとんどが津波の浸水によるものであり,特に旭市の旧飯岡町(下永井〜仁玉)の海岸付近に集中して発生していた.また,旭市では局所的に液状化による建物被害が生じている地域(三川,蛇園など)が見られた.(4)
印旛沼周辺旛沼周辺で対象とする自治体は,佐倉市,印西市,酒々井町,成田市とした.現地調査は全壊または半壊の被害の発生が報告されていた佐倉市および成田市で実施した.佐倉市,成田市ともに住宅の不同沈下が主な被害であった.ただし不同沈下は生じているものの噴砂の跡はほとんど見られなかった.
5. 群馬県内の被害概況
5.1 概要
群馬県は,12 市15 町8 村,人口は2,005,426 人 (平成23 年3 月1 日現在),面積は6363.16km2,建物棟数は,1,224,182
棟(平成21 年固定資産の価格等の概要調書).群馬県総務部によれば,全壊及び半壊した住家はない.
なお,住家一部破損は12,990 棟にのぼりブロック塀の損壊多数あるという(3 月21 日現在).国土交通省によれば,応急危険度判定は,桐生市,太田市,渋川市,邑楽町において,計108 件が実施され,危険が30 件,要注意が54 件であった(3 月30 日現在).伊勢崎市・高崎市では,施設の非構造部材の損壊が報告されている.伊勢崎市と,藤岡市の施設で,煙突の被害.瓦施工関係の業者によれば,棟瓦の被害が多い,特徴は築30 年前後,棟の段数が多い,棟の緊結がない,棟に飾りや透かしが入っている,棟土が風化していることなど.液状化・地盤変状による建物被害は確認されていない.
6. 埼玉県内の被害概況
6.1 概要
埼玉県は40 市23 町1 村,人口は7,197,441 人(平成23 年2 月1 日現在),面積3797.25km2,県内の住宅総数は2,688,000棟である(平成22年度埼玉県統計年鑑より)。
6.2 被害の特色の概要
県建築安全課発表の直近の建物被害数は全壊2,半壊7で,地震被害の大多数は,瓦の落下や外壁の一部剥離など軽微な被害である.全壊は古い牛舎(幸手市)と空き家(鴻巣市)であり,半壊も草加市の2 棟(詳細不明)を除いていずれも老朽化した建築物や倉庫(川口市,幸手市,鴻巣市)である.
被害の大半は県中央部から北部にかけてのJR 高崎線や荒川沿いおよび県東部の東武伊勢崎線や中川・江戸川沿いで発生している.
応急危険度判定を実施した自治体は64 市町村中12 市町村で,なお,市町村有建物で危険と判定された建物は,体育館である
7. 東京都の被害概況
7.1 概要
自治体数: 23 特別区,26 市,5 町,8 村,人口:12,988,797人,建築物数:2,727,098 棟,面積:2187.65km2.
7.2 被害の概要
被害率:0.007%(東京都内建物総数に対する応急危険度判定で危険・要注意と判定された建物棟数の比率).被害の特色の概要:構造的被害は少なく概ね軽微であった.非構造部材の被害は窓ガラス破損,外壁仕上材破損,天井材落下,家屋の屋根の損傷などが見られた.ブロック塀・大谷石塀の転倒,擁壁の亀裂・破損,煙突被害も複数見られた.23 区東側では液状化被害が見られた.
8. 神奈川県の被害概況
8.1 概要
自治体数:19 市13 町1 村,人口は9,008,132 人(平成22 年1 月1 日現在),建築物数2,301,979 棟(県勢要覧平成21
年版),面積2415.85km2.
8.2 被害の概要
3 月14 日から3 月24 日にかけて, 12 市5 町1 村に対してヒアリングを行い,建物被害の報告があったのは,横浜市,川崎市,秦野市,大和市,海老名市,座間市,綾瀬市である.被害率はいずれも0.1%未満である.建物被害の多くは,外装材のひび割れや一部落下,瓦のずれ,ガラス破損,エキスパンションジョイントの損傷など,軽微なものが多い.地盤変状による被害が見られた地区について,建物自体の被害は少ないが,建物外周の付属物や道路,埋設物に被害が生じている.
9. 山梨県内の被害概況
山梨県総務部消防防災課によれば,3 月11 日の本震の後,笛吹市と富士川町で住家の一部損壊4 棟,非住家に外壁の亀裂等9 棟が報告されている.応急危険度判定は実施されていない.現時点では被害は極めて限定的であると判断される.
参考文献:「東北地方太平洋沖地震および一連の地震緊急調査報告」社団法人 日本建築学会
千葉県内の被害写真